IIJ GIO 松江データセンターパーク見学ツアーに行ってきた(1) 前回のおさらい

外気冷却コンテナDCに関する技術的・法律的な解説は、今回の松江データセンターパーク見学の前編となる2010年8月の外気冷却型コンテナDC実証実験場見学の時に詳しくお聞きした為、まずはこの話を振り返ってみる。

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GOOGLEクラウドの核心

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建築の面から見た従来型DC(ビル型DC)の問題点

従来型DCは大規模な建築物であり、また顧客がDC中に入って作業するのでアクセスの良い都市部に立てる必要がある為建築コストが高い。

建築には年単位の時間がかかる為予め需要を見込んで作っておく必要があるが、建ててしまえばラックを埋めなければ十分な収益を確保できず、大量に在庫(空きラック)を抱えるリスクを負う事になる。

コンテナ型DCを導入すればコンテナ単位の増設が可能になり、また短期間で設置可能な為、必要になった時点で増やしていくような事が可能になると考えられる(リードタイムの短縮)。
また、顧客がDC中に立ち入らないクラウドサービスで利用する事を前提にしコンテナ型DCにする事で、都心に立地する必要性がなくなり安価な土地にコンテナを並べていけばよくなり建築コストが削減出来る。

冷却の面から見た従来型DCの問題点

一年を通して空調機を稼働させ機器を冷却する為に大量の電力を消費している。
電力コストを抑える為、冷却系の仕組みを見直したい。
空調機のコンプレッサが最も電気を食っている為、これを止めて外気で直接機器を冷却する事を考える。

→外気冷却型コンテナDCの実証実験を行ってみよう


冷却装置とコンテナ

コンテナのレイアウト

実証実験で構築した外気冷却型コンテナDCは以下の図のような形になっている。
ラックを境として裏側と表側の空気が混じり合わないよう天井と壁を密閉し、コールドエリアへ冷たい風を送り込み、ラック内の機器を冷却し、ホットエリアから温まった空気を吸い出す仕組みだ。

後述する冷却のモードによるが、冷却風の風量は最大で風速11mにもなる。
通常時には人が中に立ち入らない前提で設計されている事が分かる。


IIJ社のWebサイトより転載


送風口


コールドエリア


ホットエリア


排熱口

冷却モード

コンテナ内の温湿度はデータセンタの冷却に関する基準であるASHRAE 2008(ASHRAEについての解説はこちら)に従う事とした。


ASHRAE 2008が推奨する温湿度の範囲
IIJ社のWebサイトより転載

しかし、季節によって気温・湿度の変化が大きい日本の気候では、常に一定の方法で外気冷却を行うだけではASHRAE 2008を満たす安定した冷却を行う事ができない。

そこで、コンテナ内の温湿度を常時監視しながら、以下の三モードを自動的に切り替える方法を採ることにした。

  • 中間期モード:外気の温湿度が冷却に丁度いい時は、単純に外気を取り込んで熱を外に排気する
  • 冬季混合運転モード:外気の温湿度が低すぎると結露が発生したりHDDのグリス粘度が上がって故障率が高くなったりするので、排熱を外気と混ぜて温湿度を上げてから使う
  • 夏記循環運転モード:外気が暑すぎるので普通にクーラー使って冷却 このモードは電気を食うのでなるべく減らしたい


それぞれのモードの動作イメージ
IIJ社のWebサイトより転載


温湿度と運転モード、ASHRAE 2008の推奨範囲の関係図
IIJ社のWebサイトより転載

外気がASHRAE 2008の範囲(真ん中の左上辺が欠けた四角)に収まっている時は外気運転モードで動くが、その外側の範囲では温湿度が低すぎれば混合運転モード、高すぎれば循環運転モードでコンテナ内温湿度をASHRAE 2008の範囲へ調整している。


実験運転中の外気の温湿度とコンテナ内温湿度をグラフ上にプロットした動画(4月頃→寒いので朝と夜は混合運転モードに入る)

電気利用効率の指標としてPUE(データセンタ全体の消費電力÷IT機器の消費電力)がある。
最近の国内DCのPUEトレンドは1.7程度で、本実験では夏場1.3・冬場1.1・通年1.2程度を達成。
PUEについての解説はこちら

コンテナのサイズ

  • ISO規格コンテナではない(ISO: 2.438m x 2.2591/2.896m x 6.096/12.192m, 実証実験: 3m x 3m x 8m)

 →ISO規格コンテナでは狭いので、広いサイズのコンテナを作った

  • 現在の横幅3mなら道路での運搬が可能なのだが、道路交通法上、国から毎回輸送の許可を必要とし許可まで1.5ヶ月を要す

 →幅を2.5mに狭める事を検討中

コンテナは「建築物」か

  • 日本の現行制度ではコンテナが建築物とみなされる為、建築確認申請や消防施設の設置義務が課され、導入に時間がかかってしまう(コンテナ型の大きなメリットは迅速に増設出来る事なのに)
  • 消防設備は定期点検が必要になる。コンテナ一つ一つが独立した建築物とみなされる為、それぞれについて定期点検をしなければならず、コストがかかる
  • 国・官庁への要望により、コンテナ型データセンターを特別に建築扱いしない緩和措置がとられる事となった(詳しくはGeekなページで)
  • 現在の実験設備は4号建築物だが、緩和措置によりコンテナDCは2010年中に建築物扱いしなくて済むようになる見通し(但し原則無人運用に限る)

まとめ

  • 日本の気候に最適化した外気冷却機構を開発、一年を通じて低消費電力を達成できる事を確認
  • 迅速にコンテナ型DCを展開する為の法整備、コンテナ設計などの条件が揃いつつある
  • 2011年には商用サービス向けに建設し、クラウドサービス「IIJ GIO」用インフラとしてサービスを開始する